現在の白内障手術は、小さな切開創での術式が進歩し確立され、術後誘発の乱視が少なくなり、屈折度数合わせにおいて高い精度を持ったとても優れた手術になっています。それには超音波機器の進化が大きく貢献しています。超音波がなかった頃の手術と出現してからの手術の内容を比べると、かなり多くの違いがあります。それに対し、超音波機器が出現してからはどうかといいますと、手技の内容としてはそこまで大きく変わっていないとも言えます。それでも少しずつ改良されています。
従来の良さか新しい良さか、私がこれまでに経験してきた中で、選択してきたいくつかの項目がありますので説明させていただきます。
内容は専門的になりますが、このようなことを検討してきた結果、私の手術は現在の手術方法へと至った、ということが、少しでも当院の手術についてのご理解の一助となれば幸いです。(手術の基本的な流れはここには書いておりませんが、当院での白内障手術検討の際に診察室で冊子をお渡ししております。)
- 2.4mm幅の切開創
20年前でも3mmほどの切開創はかなり小さいもの(小切開)でしたが、2.4mm、2.0mm、1.9mm(極小切開)と更に小さくなりました。極小切開では、侵襲が少なくなることは明らかですが、手術器具を目の中に入れる創がきつくなります。創に負担がかかる可能性があり、術者の熟練度がカギとなります。
私は2.4mm切開を続けていますが、標準的な小切開であり、棒状の器具を動かすときには創に対し軽めの負担で済むため、現在の私の技術を最も生かすことができ、難症例の手術にも対応しやすい大きさだと考えています。実際にはどの大きさでおこなったとしても、熟達した術者が行っていれば良い結果をもたらすことができます。
■サイズ | ||
2.4mm(当院) | 1.9mm | |
イメージ | やや大きい | 最も小さい |
創口負担 | 負担少ない | 時に負担かかる |
器具の影響 | 動かしても創口変化は少ない | 時に創口のダメージが大きい |
技術 | 比較的簡易 | 熟練が重要 |
- 切開は強角膜切開を選択
創口を作る際、基本は結膜、強膜、角膜を操作します。現在は角膜切開、経結膜強角膜切開、結膜切開後の強角膜切開(強角膜切開)のいずれかが選択され、それぞれの病院や医師によって違います。
私は結膜切開後の強角膜切開を選択しています。結膜切開と強角膜切開を分けると、眼内に入るメスが細菌に触れる機会が少なくなります。終了時、結膜が創口を完全に覆うことができれば、術後に菌が目の中に入ることを最も防げると考えています。
■切開創の種類 | |||
角膜切開 | 経結膜強角膜切開 | 強角膜切開(当院) | |
手技の数 | 1回 | 1回 | 2回(結膜切開の分) |
時間 | 短い | 短め | 時間かかる |
メスの入口 | 角膜表面 | 結膜表面 | 強膜(ほぼ無菌) |
トンネル長 | 長め | 短め | 短め |
創口負担 | 無~多 | 無~少 | 無~少 |
術後創口 | 露出 | 一時露出→覆われる | 覆われる~露出 |
常在菌の侵入 | 可能性あり | 可能性~被覆で低下 | 可能性~被覆で低下 |
手技 | 慣れれば容易 | 一部は感覚で作業 | 視認性があり容易 |
- 上方に切開位置をとる
黒目の少し外側の白目のどの方向から切開するかについてです。角膜切開では黒目の真横に作成することも多いです。目を開けた時に露出する部分であり、強角膜切開と比較すると菌にさらされるのが少しだけ気になる場合があります。
強角膜切開、経結膜強角膜切開では黒目の上方に創口作成します。私も同位置に創口作成しています。術後は目を開けた時にも上まぶたに覆われるため、外部から菌にさらされる機会は少なくなります。
- 皮質完全除去をめざす
水晶体皮質(周辺の柔らかく薄い部分)は基本的に除去しますが、水晶体嚢の周辺の皮質は視認が困難です。わずかなものは溶けて消失すると考えられています。大きめのものは残存します。残存が問題とならないことも多いですが、あとから中央に移動すると視力に影響することもあります。
私は、浮遊している残存物も含めてほぼ完全な除去を目指しておこなっています。少しだけ時間を費やしますが、これが術後炎症の少なさにつながり、翌日からの見え方に良い影響をもたらすと考えます。最終的な視力に影響はないかもしれませんが、残存がない最大限の結果を目指し、念入りに注意深く行っています。
- 灌流ボトルの高さを低めにする
灌流ボトルは手術中の眼内の作業スペースの安定に寄与します。高さは高ければより安定させることができますが、組織に負担をかける可能性があります。私はあえて少し低めで設定しています。術中の痛みの軽減につながり、丁寧な手技を行えば成功率を高く保つことができます。慎重に行うことで若干時間は増えることになりますが、目にはやさしい手術になると考えます。
- 外来手術の選択
当院は外来手術でのみおこなっています。手術後、1時間ほどの安静ののち帰宅できます。以前はリカバリー室でベッド安静を推奨していましたが、現在はそれもせず、座りながらテレビを見てリラックスしながら過ごしていただきます。帰宅時は安全を重視し、できるだけ付き添いの方と一緒に帰宅していただいております。現在の白内障手術の麻酔は、点眼による局所麻酔で侵襲も少なく、術後の強い痛みが起こることもほとんどなく、翌日には眼帯も外れるため、外来手術は最も適している方法の一つと考えます。
入院であれば対応してもらえる安心感はもちろんあります。しかし、慣れない場所での滞在がストレスになる、同部屋の患者さんがうるさくて眠れなかったなど、思わぬつらい思いをする可能性もあります。また、点眼ができるか不安だからと入院を希望する方がたまにいらっしゃいますが、近年の短期入院の傾向で入院であっても片眼ならば2,3日の入院が多めです。1,2日は看護師から点眼を補助してもらえても、帰宅後は自分または家族のサポートで点眼をおこなうことになります。まれですが、高齢者では入院という慣れない環境によって、認知症症状が出現、悪化するケースもあります。
どちらを選択するかはご希望でよいと思います。これらのメリット・デメリットを知っていただき、外来手術も視野に入れご検討のもと、選択してもらえればと思います。当院では十分な安全管理の下で治療をおこなっていますので、メリットが十分ある外来手術をお勧めしております。ご不明、ご心配な点があれば遠慮なくご質問いただければと思います。
- クリーンルームで安心の環境
他の科と異なり、目の手術であり感染対策には細心の注意を払っています。当院では最新のクリーンルームを完備しています。眼内炎はたとえ明らかな原因がなかったとしてもごくまれな確率で起こってしまうとされていますが、私は幸いにも、これまで大学病院、総合病院での手術では1件も眼内炎を出しませんでした。当院でも現在までこの経過を更新しております。最大限の努力をしながら、今後も継続を目指したいと思います。
- これらを踏まえて
前述の手技の違いは術者の好みによるのですが、どれも適切な手術を行いさえすれば十分な安全性を確保できます。他の手技が安全性に欠けるわけではなく、熟達した術者は良い手術を少しだけ短い時間でおこなっています。その点は誤解なくご理解いただければと思います。
私の手技は他院の医師・医療施設と比べて少しだけ時間をかけていると思います。しかし、術後の状態は安全に安全を重ねたものになると考えています。短時間にこだわってしまうと粗い手術になってしまう可能性もあります。そうならないよう、1日の手術件数も一定数に決めております。1件に普通の手術時間を確保し、状況によっては十分に時間をとれるようにしています。長時間の手術は患者さんへの負担になりますのでそれは避けながら、1件あたりに数分だけ時間を追加することで丁寧さと高い精度と安全性を提供しようと考えておこなっています。
手術である以上100%安全というものは存在しません。ですがそれに少しでも近づけるよう、これらのことを当院は提供しています。
信頼して治療を受けていただけることは最も大切なことの一つだと思います。それには普段の診察内容の正しさ、コミュニケーション、術者の考え方が重要だと考えます。外来診察でも疑問点は解決しようと思いますし、手術を決める時の検査の日に手術内容をできる限り丁寧に説明しております。
これらの要素から、当院はみなさまにお勧めできる手術環境を準備できている、と思っております。手術の流れはネット上でもさまざまなサイトでわかりやすい画像説明があり、大きな流れはどの病院、クリニックでもほとんど同じになっています。そのため今回は量が多くなりましたが、敢えてその説明以外の部分について、より詳細にお伝え致しました。